~山中漆器の特徴~
1.ろくろ引き
山中漆器の一番の特徴はろくろ引き技術。
これは木の丸太をかんなでくり抜いて形を作る技法で、山中漆器の基盤となっている。山中の木地師でないとここまで高度に引くことはできない。山中漆器を代表する棗もこの高度なろくろ技術を用いて作成されている。
ろくろ引きの特徴
・木材の取り方
一般的には板面取りと呼ばれる方法が用いられ、木材を板状に加工してから材料取りを行う。山中式のろくろ引きでは縦木取りという方法を使用する。縦木取りは、木の丸太を縦に切り、その丸太から材料を取り出す方法。これにより、狂いが少なく、高品質な木地が得られる。縦木取りは山中式ろくろ引きの特徴であり、他の産地ではあまり行われない。木地の品質や高度な技術が求められるが、その結果、高品質な製品が生み出されるという利点がある。横木取りに比べて技術が高度であるため、木地師(きじし)と呼ばれる専門家によって行われる。
2.塗り
・真塗(しんぬり)
上塗りの漆に若干の油分を混ぜて、研がずに艶のある塗り上がりにすることを「真塗」と呼ぶ。これを
「塗立」「花塗」と称するところもある。
また、蝋色(ろいろ)塗仕上げを真塗と称することもある。艶のある鏡面のような膚で、真台子、真手桶、真中次、長板、炉縁などに施される。上塗の面を丹念に研ぎ上げ、菜種油、砥の粉、鹿の角粉などを用いて磨き、漆を擦りつけて磨く工程を、四、五回繰り返して蝋色を上げる。
・掻合塗(かきあわせぬり)
所説あるが、木地に直接黒漆を塗り、吸い込みの差で木目を生かした塗り上がりにしたもの。また、気を張らずにさっと上塗りしたものなどを指すこともある。
柿渋下地に漆を塗る技法のことも指す。
・一閑張・漆張(いっかんばり・うるしばり)
布や紙を前面に張り、他の下地はほとんど施さない。軽く、素朴な風合いが好まれる。
・乾漆(かんしつ)
麻や綿の布、紙などを、漆に糊を混ぜたもので張り重ねていく技法。
・溜塗(ためぬり)
朱塗などの色漆の上に透漆(飴色半透明の漆)を塗る。下地の色によって発色が変わる。
・木地溜塗(きじためぬり)
木地に透漆を塗る。木目の美しい木地や、由来のある木地の場合によく行われる。
・石地塗(いしじぬり)
イジ塗りとも称する。これも諸説あり、石の薄片を並べて上塗りしたもの、漆を綿などにつけて叩きつけたもの、乾漆粉(漆を薄く塗り乾燥させて粉にしたもの)を蒔き固めたものなどがある。
・朱塗(本朱)
朱合漆に本朱を混ぜて塗る。
・朱塗(洗朱)
朱合漆に洗朱を混ぜて塗る。
・潤塗(うるみぬり)
黒漆に弁柄か本朱を混ぜて塗る。
・紅溜塗
中塗りを朱漆で仕上げ、上塗りを透漆で仕上げる。
・白漆塗
朱合漆に白の顔料を混ぜたもの。時間が経つと白味が増す。
3.合口
山中漆器の茶道具の塗り物の最大の特徴。
非常に高度な技術を要し、すっと落ちる山中漆器の合口は自慢できる要素の一つ。塗師によって下地の加減や仕上げ方が異なるため、木地師と塗師とのコンビネーションが重要になってくる。紙のように薄く仕上げることもでき、合口といえば山中と言って良いほど誇るべき技術力の高さである。
4.制約の世界
一般の漆器制作においては、自由度が高く、制約がほとんどない。形、大きさ、寸法などを作り手の好みや需要に応じて自由に作ることができる。それに対して、山中漆器は特定の制約が存在し、自由なアプローチは許容されない。その制約の中で制作されるからこそ、伝統を受け継ぎ美学を反映した唯一無二の作品が生み出される。
5.茶乃湯塗師と呼ばれる専門家がつくっている
作家ではなく茶乃湯塗師と表する所にこだわりがある。茶の湯における伝統や美意識を守り、次世代に伝える重要な役割を果たしている彼らが作るものだからこそ価値がある。
6.お茶の名家と繋がる独自の歴史
山中塗りは、会津と京都の名工が山中に湯治に来て、技術を伝え、山中の技術と結びつくことで誕生した。大正9年に、京都の表千家のお家元一行(惺斎 (せいさい)表千家)が山中温泉に湯治に来られ、山中塗りに感銘を受けた。その後、器や木地を京都に持ち帰り、千家十職(せんけじゅっしょく)の中の中村宗哲さんが、山中塗りの漆器に蒔絵を施し、茶道具として使用するようになった。これが山中塗りの発展に繋がった。
~前端先生の良さ~
本物の伝統技術を活かしつつ、新しい可能性を追求しているところ。
具体的には・・・
・古典的技法からオリジナルデザインまで
先生の作品には、古典的な技法である琳派や加賀蒔絵の要素が取り入れられており、さらにこれらの技法を用いてオリジナルのデザインを創り出している。
短くても半年という、それぐらい手間暇かけて丁寧に蒔絵を施している。
・陶胎漆器(とうたいしっき)・陶漆(とうしつ)
普通は木に漆を塗るが、先生は陶磁器に漆を塗り、その上に蒔絵や加飾を施す技法を用いている。漆は何十回も重ね塗りされ、釉薬は使用されない。この技法は幕末には存在したが近年ではあまり見られないため、珍しく、どう塗りを密着させていくか、付着させていくかは簡単にできるものではない。先駆者であるからこそ長年研究してきた結果と実績があるからこそ為せる技である。
先生の作品は抹茶碗や水差しなど、主に茶道具として作られており、これらのアイテムが展示会で人気を集めている。